「今日はシミュレーターのコースを打ちながらやりましょう」
第4回のレッスン冒頭、林コーチにそう言われた。打席の前のスクリーンには、見覚えのあるコースが映っている。
「セント・アンドリュースのオールドコースです。雰囲気があってやりやすいので使ってます」
世界最古のゴルフコース。本物のコースには縁もゆかりもないが、ここではスクリーン越しに「プレー」できる。

■ 1番ホール。練習通り打てなかった
ドライバーを握る。左端にOBゾーン。右に池。スクリーンに映し出されるコースに、思わず身構えてしまった。
「いつも通り打ってください」
林コーチが隣で見ている。TrackManがデータを取っている。「いつも通り」と言われても、不思議と体が緊張する。
打った瞬間、わかった。思い切り右に飛んだ。スライス。OBゾーンは免れたが、フェアウェイを大きく外れた。
「データ見てみましょう。フェースアングルが+5度に戻ってますね」
3回のレッスンで+1度まで改善されていたはずが、+5度に逆戻り。
「……なんで」
「緊張すると、どこに出ますか?」
「……グリップが緩むかも」
「そうです。プレッシャー下で一番崩れやすい動きが出ます。人によってグリップだったり、アドレスだったり、テークバックだったりする。あなたはグリップが崩れやすいタイプです」
■ 「本番用スイング」と「練習用スイング」
「実はこれ、すごく重要なことです。練習場では正しく打てるのに、コースでは崩れる——ほとんどのアマチュアが経験することです」
「どうすれば崩れなくなりますか」
「二つあります。一つは、崩れやすいポイントを知ること。もう一つは、プレッシャー下でも変えない『ルーティン』を作ること」
ルーティンという言葉は聞いたことがあった。でも「なんとなく同じ動作をする」程度のイメージしかなかった。
「ルーティンは、脳を『準備完了』に持っていくためのプロセスです。毎回同じ動作をすることで、プレッシャー下でも反射的に正しい準備ができるようになる。プロがあんなに時間をかけてアドレスに入るのはそのためです」

■ 自分専用のルーティンを作る
林コーチと一緒に、私の「打つ前のルーティン」を設計した。
- ボールの後方からターゲットを確認する(3〜4歩後ろから)
- クラブを軽く素振り(1回)でリズムを確認
- グリップをチェック(中指・薬指を意識)
- アドレスに入る(肩のラインを確認)
- ワッグル1回
- 打つ
「このルーティンを毎回やることで、グリップチェックが自動的に入るようになります」
「でも、本当にこれで緊張しなくなりますか」
「緊張はなくならないです。でも、緊張してもルーティンが走るようになります。脳が『いつものやつだ』と認識するので」
■ 再び1番ホール。少し変わった
ルーティンを意識しながら、もう一度1番ホールを打つ。
後方確認。素振り。グリップチェック。アドレス。ワッグル。
——スパン。
フェアウェイど真ん中ではなかったが、フェアウェイに乗った。
「フェースアングル+1度。いいですね」
「……なんか、落ち着いて打てた気がします」
「ルーティンに入ったら、もうスイングのことを考えない。グリップを確認したら、あとは打つだけ。スイング中に『こう打とう』と考えると、体が混乱します」
考えない。ルーティンを走らせて、あとは体に任せる。
練習と本番のギャップは、「知識の問題」ではなく「準備の問題」だった。

■ バーチャルコースで4ホール回った
その後、4ホール分をシミュレーターで打った。3ホール目のパー5で、ティーショットがフェアウェイに。セカンドショットもグリーン近くに。2パットでパー。
「パーが出ましたよ」
林コーチが記録を見せてくれた。ホールアウトのスコアを見ると、確かにパーが記録されていた。
「コースでパーが出たのって……たぶん初めてかもしれないです」
本物のコースではないけれど、この感触は本物だった。
次回は最終回。ここまでのまとめと、「継続するための練習計画」を一緒に作る予定だ。
(連載 第4話 / 全5話)