アイルランドのリンクスコースの雰囲気をアメリカ中西部に再現する——そんな野心的なコンセプトから生まれたのがウィスコンシン州のホイッスリング・ストレーツだ。ミシガン湖畔に広がるこのコースは、海を湖に置き換えながらも、本物のリンクスに近い植生と地形を作り出すことに成功した。全米プロ選手権を3度、ライダーカップを1度開催した実績は、アメリカのゴルフシーンにおけるこのコースの重要性を如実に示している。そしてこのコースには、ゴルフファンが決して忘れられないある「悲劇」も刻まれている。

ピート・ダイが作った1,000以上のバンカー

ホイッスリング・ストレーツを設計したのはピート・ダイだ。TPC・ソーグラス、Kiawah Island(オーシャンコース)など、アメリカを代表する難コースを多数手掛けたダイは「地獄のコース設計家」とも呼ばれる人物だ。

1998年に開場したホイッスリング・ストレーツで、ダイはその本領を遺憾なく発揮した。18ホール全体に散りばめられたバンカーの数は公式記録で967個、非公式には1,000個以上と言われる。これはゴルフコースとしておそらく世界最多に近い数字だ。バンカーはフェアウェイのあちこちに点在するだけでなく、グリーン周囲を囲むように配置され、さらに砂で覆われた土手や丘の斜面にも埋め込まれている。「バンカーではなく、草が生えた砂地」のように見える箇所も実際はバンカーとしてルール上機能することがあり、これが後述の歴史的な悲劇を生む原因となった。

コースはミシガン湖に並行して延びており、特に北側の数ホールは湖面のすぐ際を走る。湖から吹き付ける風はアイルランドの海風と同様に気まぐれで、どのホールでも風の方向と強さを読むことが不可欠だ。フェアウェイは傾斜や起伏が多く、人工的に作られた凹凸がリンクスコースの自然な地形を模している。

2004年全米プロの悲劇——ビクター・デュビソンの失格

ホイッスリング・ストレーツの名前が世界に刻まれた最初の出来事は、2004年の全米プロ選手権だ。この大会は首位に立ったビジャイ・シンの優勝で幕を閉じたが、後世まで語り継がれるのはフランス人選手ビクター・デュビソンの話だ。

最終日、デュビソンはプレーオフ進出を賭けた状況にあった。18番ホールのフェアウェイで、彼はボールが砂地(バンカー)の近くに止まったと感じ、砂の上でソールして構えた。しかしそれは正式なバンカーだった。バンカー内でのグラウンドへのソールはルール違反(2打罰)となり、これを申告しなかったことによる競技失格となった。

実はフェアウェイ脇の砂地のように見えたその場所は、ダイが作った無数のバンカーの一つだった。ルールを遵守するゴルフにおいて、バンカーの境界を見極めることの難しさと、ルール違反を自己申告するゴルフの精神が同時に問われた事件だ。デュビソン自身はルール違反に気づかないままプレーを終えたが、後にビデオ映像で発覚し、競技失格となった。

この事件はコースとルールの関係、そして1,000を超えるバンカーが持つ罠の怖さを世界に知らしめた。

全米プロとライダーカップの舞台として

2004年の全米プロに続き、2010年にも全米プロ選手権がホイッスリング・ストレーツで開催された。この大会はマーティン・カイマーが優勝し、若手欧州勢の台頭を象徴する大会となった。同年の全米プロでは最終日にダスティン・ジョンソンがバンカー内でソールして2打罰を受け、プレーオフ進出を逃すという事件も起きた。皮肉にも2004年の悲劇と同じ「バンカートラップ」が再び歴史の舞台となったのだ。

2021年には同コースで全米プロが3度目の開催となり、コリン・モリカワが優勝した。そして2021年9月、ホイッスリング・ストレーツはライダーカップの舞台となった。アメリカ対欧州の伝統の対抗戦で、アメリカチームが圧倒的な強さで欧州を破り43年ぶりの大差勝利を収めた。ジャスティン・トーマス、コリン・モリカワ、ブライソン・デシャンボーらが揃ったアメリカの黄金世代が、ホームコースの利を最大限に活かした大会だった。

リンクスとはなにかを問い直すコース

ホイッスリング・ストレーツは「本物のリンクスコース」ではない。リンクスの定義は海岸線の砂地に自然形成されたコースであり、このコースは内陸の湖畔に人工的に作られたものだ。しかし、リンクスが与えるべき「体験」——変わりやすい風、砂のバンカーの脅威、開けた空の下での戦略的なプレー——という要素は十分に再現されている。

ピート・ダイ自身がアイルランドのバリーバニオンやロイヤル・カントリーダウンを参考に設計したと語っており、コースを歩けば確かにそのオマージュを感じ取ることができる。砂漠のコースが砂漠のゴルフの本質を伝えるように、このコースはリンクスゴルフの精神——自然への謙虚さと戦略の深さ——を伝えている。

ゴルファーが知っておくべき理由

ホイッスリング・ストレーツはウィスコンシン州コヘラー近郊に位置し、ミルウォーキー空港から車で約1時間半の距離にある。コースはザ・アメリカン・クラブ・リゾートに属しており、宿泊パッケージと合わせてプレーするのが一般的だ。

プレーは一般公開されており、事前予約によって訪問可能だ。ラウンド費用は高額だが、それに見合う体験を保証できるコースの一つだ。1,000個以上のバンカーを前に自分のコースマネジメント能力を試す体験は、ゴルフというゲームの戦略的深さを改めて教えてくれる。

ミシガン湖から吹く風の中、架空のアイルランドリンクスを舞台にした一打は、ゴルフが持つ「場所を超えた普遍性」を静かに実感させてくれるはずだ。