シンガポール本島の南端、マリーナ・ベイの対岸に浮かぶセントーサ島。ユニバーサル・スタジオやリゾートワールドで知られるこの観光の島に、アジアを代表するゴルフクラブが静かにたたずんでいる。セントーサゴルフクラブ——シンガポール、そしてアジア全域のゴルフファーに「目指すべき場所」として広く認識されてきた存在だ。
2つのコースが示すアジアゴルフの多様性
セントーサゴルフクラブには「タナメラコース」と「セラポンコース」の2コースが併設されている。それぞれが全く異なる個性を持ち、プレーヤーに異なる体験を提供する。
タナメラコースは18ホール(パー70)、全長6,039ヤードのチャレンジングなレイアウトだ。起伏に富んだ地形と、島の自然を生かした設計が特徴で、海と緑が交互に視界に入る。「タナメラ」はマレー語で「赤い土地」を意味し、島の土壌の色に由来する。距離は短めだが、アンジュレーションとグリーンの複雑さで難易度を保っている。
セラポンコースは18ホール(パー72)、全長6,800ヤード以上のフルレングスコースだ。こちらが世界的なトーナメントの開催に使われるメインコースで、フェアウェイのワイドさとグリーンの広さを持ちながら、バンカーと水障害がプレッシャーをかけ続ける設計になっている。「セラポン」はマレー語で「海鷹(ミサゴ)」を意味し、コース内にかつてこの鳥が多く生息していたことに由来する。
HSBC女子チャンピオンズ:アジアのメジャー
セントーサゴルフクラブの国際的な知名度を飛躍的に高めたのは、LPTAツアー公認の「HSBC女子チャンピオンズ(現在はシンガポール女子チャンピオンシップ)」だ。2008年から継続的に開催されてきたこの大会は、世界トップの女子プロが一堂に会し、アジアのゴルフファンに本物のトーナメントゴルフを届けてきた。
大会にはソレン、朴セリ、申智愛(シン・ジエ)、テレサ・ルー、ネリー・コルダ、稲見萌寧ら、時代を代表する選手たちが参加。特にアジア系選手の活躍が目立ち、アジアのゴルフ人気を牽引する存在となってきた。
シンガポールという都市の特性——多民族・多言語・グローバルな金融ハブ——が、この大会に特別な色彩を与えている。スタンドにはマレー語、中国語、英語、タミル語が飛び交い、選手のバックグラウンドも多様だ。アジアのゴルフが世界と競い合う場として、この大会の存在意義は大きい。
赤道直下のゴルフ:気候との戦い
シンガポールは北緯1度という赤道直下の都市だ。年間を通じて気温は27〜34度の範囲で推移し、湿度は常に高く、降雨は年間平均2,340ミリにも達する。つまり、ゴルフには最も厳しい気候条件のひとつだ。
このため、セントーサゴルフクラブではほぼすべてのゴルファーがカートを使用する。徒歩でのラウンドが基本の欧米や日本と異なり、シンガポールでは「カートに乗ること」が健康面でも合理的な選択だ。また、スタート時間は早朝(7時前)か夕方(16時以降)に集中し、炎天下の昼間を避けるのが現地スタイルだ。
雨は突発的に激しく降るが、短時間で止むスコールが多い。プレー中に雷雨が来れば即座にホールドが掛かり、全員がクラブハウスに退避する。この「雷雨ホールド」はシンガポールでは珍しいことではなく、ゴルファーはそれを含めた時間マネジメントをする必要がある。
リゾートとゴルフの完璧な融合
セントーサ島はシンガポール最大のリゾートエリアであり、ゴルフクラブはその中に組み込まれたひとつの要素に過ぎないが、その充実度は独立したリゾートとして機能するほど高い。
クラブハウスからはマラッカ海峡を行き交う大型タンカーが見渡せる。プレー後にテラスでシンガポールスリングを傾けながら沈む夕日を眺める体験は、世界中のゴルフリゾートと比較してもユニークだ。ロングコースをラウンドした後に、5分でセントーサ島のリゾートホテルやビーチに移動できる利便性も魅力だ。
島内にはリゾートワールド・セントーサのカジノ・エンターテインメント施設、マリーナベイ・サンズへのアクセス、シンガポール市街への移動も容易だ。ゴルフだけでなく、シンガポールという都市そのものを楽しむ旅のベースとしても機能する。
アジアゴルフツーリズムのハブ
セントーサゴルフクラブは、アジア太平洋地域のゴルフツーリズムにおける「ハブ」の役割を担っている。日本、韓国、中国、オーストラリア、インドから集まるゴルファーが一つのコースに集い、各国語が飛び交うラウンドが展開される。
シンガポール政府はゴルフツーリズムを戦略的な観光資源と位置付けており、セントーサゴルフクラブはその象徴的な存在だ。アジアの中でゴルフを軸にした旅を考えるなら、シンガポール・セントーサは必ずルートに含まれるデスティネーションだ。
ゴルフコースとリゾートが分離している場所は世界に無数にある。だが、赤道直下の金融都市の中心に、これほどのクオリティのゴルフ体験が凝縮されている場所は、他に類を見ない。