アメリカ東海岸、サウスカロライナ州チャールストンの南に浮かぶキアワ・アイランド。リゾート島として知られるこの地に、世界で最も過酷なリンクスコースのひとつが存在する。ピート・ダイ設計による「オーシャンコース」だ。コースの全18ホールのうち10ホールが大西洋に面し、残る8ホールも海風の影響から逃れることができない。ここはただのゴルフコースではない——風という名の見えない対戦相手と戦う「戦場」である。

1991年、「ウォー・オン・ザ・ショア」の記憶

キアワ・アイランドの名を世界に知らしめたのは、1991年のライダーカップだ。アメリカ対ヨーロッパという伝統の対抗戦は、湾岸戦争が終結した直後という時代背景も相まって「ウォー・オン・ザ・ショア(岸辺の戦争)」と呼ばれた。

最終日の最終マッチ、バーンハード・ランガー(ドイツ)がわずか6フィートのパットを外し、アメリカが劇的な勝利を収めた瞬間は、ゴルフ史上最大のドラマのひとつとして語り継がれている。あのパットが決まっていれば欧州の勝利、外れればアメリカの勝利——その重圧の中でランガーが立つ姿は、コースの過酷さをそのまま体現していた。

2012年にはPGAチャンピオンシップ、2021年には再びPGAチャンピオンシップが開催され、フィル・ミケルソンが50歳にして史上最年長メジャー優勝を果たしたのもここキアワ・アイランドだ。伝説が積み重なるコースである。

ピート・ダイが仕掛けた「風の罠」

オーシャンコースを設計したのは、アメリカを代表するコースアーキテクト、ピート・ダイ。TPC ソーグラスの「アイランドグリーン」17番で知られる「意地悪な設計家」として名高い人物だ。

このコースでダイが最大の武器に据えたのは、土地の形状でも池でもなく、「風」そのものだ。フェアウェイは意図的に海に向かって開放されており、強風が直接コースを舐めるように吹き抜ける構造になっている。ティーグラウンドは海側に設けられ、背後から、横から、そして正面から——ラウンド中に風向きが何度も変わる。

コースレートは79.6、スロープレートは144(バックティー)。数字が示す通り、条件が整わないかぎりパープレーは夢のまた夢だ。プロでさえ、風の強い日には平均スコアが80台に跳ね上がる。

海辺のレイアウトが生む絶景と緊張感

全長7,873ヤード(チャンピオンシップティー)のコースを歩くと、ゴルフをしているのか、大西洋の岸辺を散策しているのかわからなくなる瞬間がある。それほど海が近い。

特に印象的なのが、2番・11番・14番・16番の各ホール。フェアウェイの右側(あるいは左側)がそのまま砂浜につながっており、ボールがラフに転がればすぐに砂の上だ。ウェイブがフェアウェイに届くような荒天日には、コース管理スタッフもホールを閉鎖せざるを得ない。それもまた、このコースの「らしさ」である。

グリーン周りのデザインも一筋縄ではいかない。ダイ得意の「レイルロード・タイ(枕木)」が各所に配置され、チップショットのバウンドが予測しにくい。バンカーは浅くて広く、アゴが低いスタイルのものが多いが、砂が粗くて重く、クリーンにコンタクトしないと距離感が狂う。

コースマネジメントこそが唯一の武器

キアワ・アイランドで高スコアを出したいなら、まず「風を読む」技術が必要だ。プロでさえ、第1ティーに立つ前に気象情報を徹底的に確認する。風向き・風速だけでなく、「どのホールでどの方向に変わるか」を事前にイメージしておくことが不可欠だ。

次に重要なのが「攻めない勇気」だ。グリーンを狙えるように見えるシチュエーションでも、ピンポジションによっては意図的にグリーンの奥から手前から転がし入れる選択が正解になる。海側のピンを無理に狙うと、わずかなミスでグリーンを飛び越えて砂浜行きになる。

また、ウェッジの選択もこのコースでは通常と異なる考え方が求められる。風に負けない低弾道のショットを打つために、通常より1〜2番手大きなクラブでハーフショットを選ぶのがキアワ流だ。

旅するゴルファーへ

キアワ・アイランドはリゾートとしての充実度も高い。ザ・キアワ・アイランド・ゴルフ・リゾートには複数のコースがあり、オーシャンコース以外にも「オスプレイ・ポイント」「タートル・ポイント」などが楽しめる。コース難易度を段階的に選べるのは、訪問者にとって親切な設計だ。

チャールストン市街からは車で約45分。周辺には歴史的な街並みや新鮮なシーフードを楽しめるレストランが充実しており、ゴルフトリップとしての完成度は非常に高い。

ただし、オーシャンコースのプレーフィーは1ラウンド400〜600ドル以上(時期により変動)と決して安くはない。それでも「一生に一度は」と世界中からゴルファーが訪れるのは、このコースが持つ特別な空気感——大西洋の風が運ぶ歴史と緊張感——があるからだ。スコアよりも体験そのものに価値があるコースが、世界にはある。キアワ・アイランドは、その最右翼に位置している。