ゴルフの聖地と言えばスコットランド、そしてイングランドを思い浮かべる人が多いだろう。しかしアイルランド島の北端、北アイルランドのコーズウェイ・コーストに、世界最高クラスのリンクスが静かに——いや、どこまでも豪快に存在している。ロイヤル・ポートラッシュだ。2019年、このコースは全英オープンを開催した。それが初めて北アイルランドの地で行われた全英オープンだったという事実は、ゴルフの歴史に鮮明な一ページを刻んだ。
コーズウェイ・コーストの絶景の中に立つ
ロイヤル・ポートラッシュが位置するのは、北アイルランド・アントリム州の海岸沿いだ。コーズウェイ・コーストと呼ばれるこのエリアは、世界遺産「ジャイアンツ・コーズウェイ」にも程近く、数万本の玄武岩柱が海岸を埋め尽くす奇岩地帯として知られる。ゴルフコースはその荒涼とした美しさの中に溶け込むように広がり、ティーインググラウンドに立てば大西洋の波が岸壁に砕ける光景がフレームに収まる。
コースの歴史は1888年まで遡る。設立当初から王室の称号「ロイヤル」を冠し、アイルランドで最も格式高いゴルフクラブとして位置づけられてきた。現在のコース設計は1929年にハリー・コルトが手がけたもので、白砂の砂丘と深いラフ、そして予測不能な海風が組み合わさったレイアウトは、リンクスゴルフの醍醐味を余すことなく体現している。
68年越しの全英オープン復帰
ロイヤル・ポートラッシュで初めて全英オープンが開催されたのは1951年のことだ。マックス・フォークナーが優勝し、その時以来68年間、大会はイングランドとスコットランドの枠内で開催され続けた。2019年に再びポートラッシュに戻ってきたとき、ゴルフ界は歴史的な瞬間として祝福した。
北アイルランドにとってその意味は単なるスポーツイベントではなかった。過去の政治的・社会的緊張を乗り越え、世界最高峰のゴルフ大会が北アイルランドに開かれたこと——それは地域の誇りを高める象徴的な出来事だった。10万人を超える観客がアントリムの丘陵地に集まり、その多くが世界各国から訪れたゴルフファンだった。
コースはその機会に応えた。最終ラウンドの天候は変わりやすく、リンクス特有の風がスコアを不安定に揺さぶった。しかし、ある一人のゴルファーにとって、その風は背中を押すものだったかもしれない。
シェーン・ローリーの涙の優勝
2019年全英オープンの結末はドラマという言葉では足りない。アイルランド出身のシェーン・ローリーが最終日を6打差のリードで迎え、それでも最後まで緊張の糸が切れることなく18番ホールを歩いた。ギャラリーの大部分はアイルランド系で、ローリーへの声援は大西洋の風に乗って海まで届きそうだった。
最終スコア15アンダー。2位に6打差をつけた圧勝だった。グリーンに歩み寄ったローリーの頬には涙が伝い、それを見た観客も泣いた。ゴルフが単なるスポーツを超えて人の感情を揺さぶる瞬間——ポートラッシュの18番グリーンはその現場となった。
ローリーにとってのポートラッシュは近い場所でもある。アイルランドのクラーラという町出身の彼にとって、アイルランドのコースで、アイルランド系の観客に囲まれてのメジャー制覇は、選手人生の頂点に位置する体験であっただろう。
ロリー・マキロイが育った土地
2019年大会で別の意味でも注目を集めたのがロリー・マキロイだ。北アイルランドのホリーウッド出身の彼は、ポートラッシュからわずか数十キロの距離で生まれ育った。幼少期からこのコースに親しみ、ゴルファーとしての感性をこの土地で磨いた。
大会初日、マキロイはファン・デル・ルーウェと並ぶドラマチックなスタートを切ったが、最終的には優勝争いから脱落した。それでも彼がポートラッシュのフェアウェイを歩く姿には、観衆が特別な感情を向けたことは疑いない。世界ランク1位経験を持つスターが地元のコースで戦う光景は、ゴルフという競技が持つ地域性と個人の物語の美しさを体現していた。
18番ホールのコーズウェイ・コーナーと呼ばれる難関を、マキロイは幼い頃から何度プレーしてきたことだろうか。それがメジャー開催コースになった事実は、彼自身の軌跡と重なって見える。
リンクスゴルフの真髄を求めて
ロイヤル・ポートラッシュは現在も外来プレーヤーを受け入れており、事前予約によって世界中のゴルファーがこのコースに立つことができる。ダンルース・リンクス(チャンピオンシップコース)とバレー・リンクスの2コースがあり、訪問時にはコンディションに応じた選択が可能だ。
北アイルランドへのゴルフ旅行は近年、急速に注目を集めている。ベルファスト国際空港やダブリン空港からのアクセスが整っており、ポートラッシュ周辺にはコーズウェイ・コーストの美しい宿泊施設が並ぶ。ゴルフと観光を組み合わせた旅行先として、これほど充実した土地は世界でもそう多くない。
白波の砕ける崖の上でドライバーを握る。その一打の行方は風が決める。それがリンクスゴルフだ。ロイヤル・ポートラッシュは、そのリンクスゴルフの本質を、世界で最も劇的な舞台で体験させてくれる場所である。