「世界で最も美しいゴルフコース」を選ぶとしたら、ケープ・キッドナッパーズは必ずそのリストに入る。ニュージーランド北島、ホークスベイ地方の太平洋に面した断崖の上に作られたこのコースは、眼下に広がる海と300mの高さという非日常的な景観の中でゴルフをプレーできる世界唯一の場所の一つだ。フェアウェイの先が崖際で終わり、その向こうには広大な太平洋が広がる——この光景はプレーヤーだけでなく世界中のゴルフファンを魅了し続けている。
ガネットの岬という名の場所
「キャプテンズ・ケープ」とも「ガネット岬」とも訳せるケープ・キッドナッパーズという名前は、1769年にジェームズ・クック船長がこの地を訪れた際の出来事に由来する。地元のマオリ族が乗組員の一人をカヌーで連れ去ろうとしたことから「Kidnappers(誘拐者)」という名が付けられたとされる。岬の先端にはオーストラリア・ガネット(カツオドリの仲間)の大規模なコロニーが存在し、ここは世界最大のガネット繁殖地の一つとして自然保護上も重要な場所だ。
コースはその岬に向かって突き出した尾根上に設けられており、18ホール全てがガネットのコロニーと背中合わせになっている。プレー中に白い大型の鳥が目の前を低空飛行する光景は日常で、まるで自分たちが野生と共存しているような感覚を覚える。これはゴルフという競技の中でもほかに例のない体験だ。
トム・ドークが生み出した絶壁のゴルフコース
コースを設計したのはアメリカ出身の設計家トム・ドークだ。ドークはペブル・ビーチの改修を手掛け、バナドン・ダンズやパシフィック・デューンズなどの傑作コースを世に出した「現代最高の設計家」との評価を持つ人物だ。
2004年に開場したケープ・キッドナッパーズは、ドークがニュージーランドの自然環境と真摯に向き合った作品だ。18ホールは三本の尾根を渡るように配置されており、各ホールがほぼ全て断崖方向に向かって伸びている。谷を越えて尾根に登り、また谷に降り、海に向かって打ち下ろす——という繰り返しが作る立体的なコース形状は、ゴルフコース設計の常識を覆すものだ。
特に注目すべきは12番から15番の「クリフトップ」ホール群だ。フェアウェイの端が文字通り崖になっており、一歩踏み外せば300m下の海へ転落する。このホール群ではプレーよりも先に「自分が今どこにいるのか」という感覚が優先される。ティーショットを放った先に太平洋しか見えないという光景は、地球上でゴルフコースが存在する場所として最も非現実的なものだ。
設計上の妙は、その絶景に溺れることなく戦略的な難しさもきちんと設けていることだ。バンカーはドークらしく自然な形状で地形に溶け込んでおり、グリーンは起伏と傾斜を巧みに使って三パットを誘発する。単なる「絶景コース」ではなく、戦略的に難しいゴルフが要求される本物のチャレンジが、このコースにはある。
世界ランキング上位の常連コースとして
ケープ・キッドナッパーズは開場から間もなく、世界の権威あるゴルフメディアやランキングにその名を刻み始めた。英国の『ゴルフ・マガジン』や米国の『ゴルフ・ダイジェスト』は世界トップ10〜50内に継続的にランク付けしており、「一生に一度は訪れるべきコース」として繰り返し紹介されている。
特に景観の美しさで選ぶランキングでは常に上位に位置し、「世界最美のゴルフコース」として世界中のゴルフファンの羨望の的となっている。実際にプレーした者の多くが「生涯最高のゴルフ体験だった」と語り、SNS時代の現在では絶景の写真が世界中に拡散され続けている。
ファームとの一体感——キッドナッパーズ・エステート
ケープ・キッドナッパーズのコースは、周囲に広がる巨大な農場「キッドナッパーズ・エステート」の一部として運営されている。この農場ではヒツジと牛が放牧されており、コースに向かう途中では動物たちとすれ違うことが珍しくない。ホテルはコース近くのラグジュアリーロッジで、宿泊ゲストは農場散策、ホークスベイのワインツアー、ガネットコロニー見学なども楽しめる。
ゴルフだけが目的ではなく、ニュージーランドの大自然の中でのラグジュアリーな滞在そのものを体験する場所——それがキッドナッパーズの本質だ。
ゴルファーが知っておくべき理由
アクセスはネイピアの空港から車で約1時間。コースへの道は未舗装の農道を含むが、送迎サービスが整備されている。プレーには事前予約が必須で、一般公開は限定的だ。宿泊ゲストを優先とするリゾート型の運営形態が採られており、コースだけをプレーするビジタープレーが可能かどうかは時期によって異なる。
ニュージーランドのゴルフシーズンは日本の春〜夏にあたる10月〜4月が最適だ。ホークスベイは温暖な気候で知られ、ワインの名産地でもある。プレー後にローカルのワインで乾杯できるという充実感は、わざわざ南半球まで足を運ぶ価値を十分に持っている。
断崖の上でボールを打った先に太平洋が広がる——その一打は、ゴルフという遊びが持つ可能性の極地を示している。