「このコースは、非常に難しいと判断されるコンディションに慣れた上級ゴルファーのみに推奨されます」

ベスページ・ブラックコースの第1ティーには、こんな看板が立っている。世界中に数あるゴルフコースで、スタートホールにこのような警告文を掲げるところは他にほとんどない。だがこれは単なる脅しではない。ニューヨーク州が所有・管理するパブリックコースが、なぜ全米オープンの舞台になれるのかを如実に物語る言葉だ。

ニューヨーカーが誇る「自分たちのコース」

ベスページ・ステートパークはニューヨーク州ロングアイランド、ファーミングデールに位置する。マンハッタンから車で約1時間。そこには5つのコースが存在し、その中で最難関かつ最高格式なのが「ブラックコース」だ。

このコースの最大の特徴は、州立公園という性格上、ニューヨーク州民であれば誰でもリーズナブルな料金でプレーできるという点だ。週末のラウンドフィーはレジデント(州民)価格で100ドル前後。全米オープンが開催されたコースに、市民が手頃な価格でアクセスできる——これはアメリカのゴルフ文化における民主主義の体現とも言える。

ゆえにニューヨーカーにとってブラックコースは特別な存在だ。「いつかブラックで回りたい」はロングアイランドのゴルファーなら誰もが抱く夢であり、実際に人気は絶大で、週末には夜明け前から行列ができる。オンライン予約が開放された現在でも、ピーク時は数秒で埋まることも珍しくない。

タイガーとフィル、2002年の名勝負

ベスページ・ブラックの名を国際舞台に押し上げたのは、2002年の全米オープンだ。このときパブリックコースとしては史上初めて全米オープンが開催され、世界中のゴルファーがそのコースの容赦ない難しさに息をのんだ。

優勝したのはタイガー・ウッズ。通算3アンダーという、全米オープンとしても厳しいスコアで制した。2位は通算2オーバーのフィル・ミケルソン。この大会でウッズとミケルソンは最終日最終組を形成し、世界最高の2人の対決として歴史に刻まれた。

その後、2009年にも全米オープンが開催され、ルーカス・グローバーが優勝。さらに2019年にはPGAチャンピオンシップが行われ、ブルックス・ケプカが連覇を果たした。3度のメジャー開催を経てなお、コースのコンディションと難易度は世界最高水準を保っている。

A・W・ティリングハストが刻んだ試練

ブラックコースを設計したのはA・W・ティリングハスト。20世紀初頭から中期にかけて活躍したアメリカの名コースアーキテクトで、ウィングドフット(全米オープン常連)やバルタスロル(同様)なども彼の代表作だ。

1936年に完成したこのコースは、全長7,468ヤード(チャンピオンシップティー)、コースレート76.6、スロープ148という数字を持つ。スロープ148はアメリカのパブリックコースとしてはトップクラスの難易度だ。

ティリングハストがこのコースで追求したのは「罰打の正当性」だ。ミスショットには必ず対価が求められる設計になっており、グリーン周りのラフは深く、バンカーは戦略的に配置されている。フェアウェイの幅は十分にあるが、ボールをフェアウェイキープするだけでは足りない——次のショットのためにコース側の指定する「エリア」にボールを運ばなければならない設計だ。

4番ホールと17番ホール:試練の象徴

コース全体を通じて息の抜けないブラックコースだが、特にゴルファーの心を折ると言われるのが4番と17番だ。

4番ホールは515ヤードのパー5。ただし、フェアウェイは左に大きくドッグレッグしており、ドライバーを曲げると深いラフに飲み込まれる。2打目は長い距離を残し、グリーン手前には深いバンカーが口を開けて待っている。ここをパーで切り抜けるだけで十分な達成感が得られる。

17番ホールは207ヤードのパー3。全米オープン開催時、ピン周辺のグリーンはまるで鏡のように速く、少しでもオーバーするとボールは止まらない。プロでさえダブルボギーを叩くことがある「処刑台」だ。

夜明けに並ぶ価値

ブラックコースでプレーするには、早起きが必要だ。週末のスタートタイムは夜明けとともに始まり、人気の時間帯は前日の夜から並ぶゴルファーも存在する。今でこそオンライン予約が主流だが、その競争率は依然として高い。

それでもニューヨーカーたちは並ぶ。なぜなら、ここは「誰でも挑める世界最高峰のコース」だからだ。プライベートクラブの会員権を持たなくても、メジャーが開催されたコースで、タイガーやフィルと同じフェアウェイを歩ける。その体験の価値は、スコアとは別のところにある。

世界には数多くの名コースがあるが、市民に開かれた公共のコースがここまでの高みを維持しているのはベスページ・ブラックだけだ。ニューヨークを訪れるゴルファーに、このコースは「ゴルフの民主主義」を体感させてくれる。